メディカルアロマは、医療従事者の中でも特に、看護師の方々に人気の資格です。看護師は医師ではありませんから、治療方針や薬の処方を決められるわけではありません。それでも、自分のできる範囲のことで、なんとか患者さんを元気にしたい、苦しむ患者さんが楽になるようケアしてあげたいという気持ちが、精油の化学的な側面に焦点をあてた理論にもとづいて精油を選択するメディカルアロマの資格取得につながっていくようです。
その思いの裏には、西洋医学一辺倒の医療への疑問が見受けられます。現代の西洋医学なら、薬物療法で病気を治療することも、外科的な治療で体の悪い部分を取り除くこともできます。しかし、それだけでは体の苦痛の緩和が不十分な場合もあり、ましてや病気に対するさまざまな不安をかかえている方の心のケアを含めた医療にはなりません。メディカルアロマは、患者さんに寄り添いながら、心身の苦痛を和らげる補完医療としての看護師の有力なスキルとなりえるのです。
看護師のスキルアップになるメディカルアロマ
香りの力と化学的側面を持つメディカルアロマだからこそできることがある
ある救急医療の現場にいた看護師さんからは、こんな話が聞かれました。全身打撲でベッドに横たわり、苦しんでいる患者さんのケアをしていたときのことです。患者さんは、体を動かせず、食事もできません。目に映るのは病院の白い壁だけ。生きる希望も失っています。体に触れてケアしたくてもできないこんな状態でも、香りという力でなら何かできるかもしれないと思い、メディカルアロマを習い始めたといいます。
また、「アロマセラピーのトリートメントは、言葉をかけるわけでもないのに、心の深い部分に迫っていける」と語る看護師さんもいらっしゃいます。
普段の看護業務では、なかなか一人の患者さんにじっくり向き合うことはできません。それがアロマトリートメントの間は、その方の体に触れながら、一対一で心身の状態を感じ取れます。どれだけストレスを感じているのか、体のどこがこわばっているのか、呼吸の深い浅いもわかります。手のぬくもりが伝わり、心がほころぶのか、こちらから聞かなくても、悩んでいることを打ち明けてくれたり、しかめっ面だった人が終わった後には晴れやかな笑顔を見せてくれたり、施術する側と気持ちのキャッチボールができるといいます。
このようにホリスティック(全的)にその人を捉えられる魅力がメディカルアロマにはあるのです。
医療現場で必要とされ始めているメディカルアロマ
日本では、アロマテラピーは医療ではありませんが、健康な状態を維持する補完代替医療のひとつとして認められ始めています。日本では、まだまだアロマテラピーの効能に関するエビデンスの普及が足りません。しかし、一昔前は医学の学会でも見向きもされなかったメディカルアロマが、医師たちの間でも関心を集め始めているのですから、大きな進歩といえるでしょう。NARD・JAPANが設立されたのが1998年。それから日本での臨床研究も徐々に増え、NARD会員も医師や看護師、薬剤師などの医療従事者が増えています。さらには、臨床アロマテラピーが1つの分野として注目されはじめているという動向もあります。
メディカルアロマが活かせる医療分野
メディカルアロマテラピーは、医療のさまざまな分野で生かせます。
産婦人科は、すでに取り入れている病院が多い分野です。出産直後の疲労感のケアや筋肉痛の緩和、産後のマイナートラブルなどによく用いられます。心療内科は香りの作用が出やすく、高い効果を発揮することが学術的に証明されています。パニック発作や不安発作、不眠症などの緩和によく用いられています。そのほか、胃腸や肺の病気、糖尿病などの生活習慣病、肝機能低下、手術後のリハビリなど、メディカルアロママッサージが経過に有益にはたらく内科の症例は多く、応用範囲は広いのです。
整形外科でも大活躍です。骨折のあとのリハビリの回復力を高めますし、腰痛や関節の痛みもアロママッサージによって緩和されます。
超高齢化社会を目前に、これからますます需要が増えるとされるのが、終末医療の現場です。特に緩和ケアは薬剤だけでなく、代替医療も使えるため、末期がん患者の方にアロママッサージを行っているホスピスも多いといいます。
がん患者の場合は、病気や治療に対する大きな不安も抱えています。そういった心理的な面をアロマテラピーでサポートし、精油の作用で情緒を安定させ、抑うつを和らげ、免疫力を上げることで治癒力を向上させていきます。さまざまな場面で精油の化学的な側面に焦点をあてたメディカルアロマの理論にもとづいて精油を選択すると、より効果的です。
介護の分野でますます必要とされるメディカルアロマ
また、病院勤務を辞めて、訪問看護ステーションで働きたいという看護師さんにもメディカルアロマは、とても強い味方になってくれます。今は、看護師不足の時代です。看護師という資格をもっていれば、職探しに困るということはありませんが、メディカルアロマの資格をもっていることで、より有利に、より自由な選択ができるといえるでしょう。なにより患者さんの役に立てる看護師になれることがメディカルアロマの大きな価値といえるでしょう。