アロマスクール「パルファム」
代表 松江朋子
植物と共に育った原体験と、身体の異変
私の植物への関心は、島根県の自然豊かな環境で育った幼少期にまでさかのぼります。山や川がすぐそばにあり、季節ごとに表情を変える植物の生命力に触れることは、私にとってごく当たり前の日常でした。しかし、その植物が単なる「身近な存在」から「人生を支える力」へと変わったのは、出産後に発症した関節リウマチという大きな試練がきっかけでした。
ある日、右手の親指の付け根に鈍痛があり、日が増すごとに痛みが強くなるとともに激痛に変わり、フライパンを持つことすらままならない状態になりました。病院での診断名はリウマチでした。当時は今以上に難病というイメージが強く、医師からも「痛みに耐えられなくなったら来てください」と言われるのみで、根本的な解決策が見当たらない状況に愕然としました。しかし、その絶望感の中で「回復への道は一つだけではなく、現代医療の力が及ぶところはお借りして、それと同時に自分自身の身体のバランスを整えることで、自然治癒力を引き出せるのではないか」という直感がありました。それが、私を自然療法の道へと向かわせた第一歩でした。
徹底した食事療法と、植物の力への確信
まずは自身の生活習慣、特に食事の改善から着手しました。肉食を控え、野菜・豆類を中心とした「菜食」を徹底したのです。半年ほど経った頃、いつの間にか痛みが改善されていることに気づき、身体の内側から整えることの可能性を強く実感しました。
その後、食事療法の権威である森下敬一先生との出会いが、私の考えをより深めてくれました。先生のクリニックで、自身の血液の状態を顕微鏡下で確認し、日々の食生活がダイレクトに身体に影響を及ぼしている事実を目の当たりにしました。玄米菜食やビワの葉療法などを取り入れ、身体が健やかになっていく過程を経て、私は「植物には、私たちが想像する以上の大きな力が備わっている」という確信を得るに至りました。
会社員時代の経験と、独立への決意
アロマテラピーを仕事にする前、私は着物の販売会社で約10年間、店長職を務めていました。離婚を経験し、二人の子供を育てる親として、全面的に経済を支える役割を担いました。年間数億円という売上とともに商品管理責任を負い、これまでの人生感が180度ひっくり返りました。スタッフをまとめ、上に立つ立場のプレッシャーと向き合う緊張とやりがいの日々でしたが、常に「女性である自分が一生涯、自分らしく仕事を続けられる道はないか」と模索し続けていました。
そんな折、休日を過ごしていたハーブガーデンで精油の香りと出会いました。精油の香り成分が匂いとしてだけでなく体中に行き渡る感覚が、幼い頃からの植物への敬愛と、これまでの自身の病気や社会経験、そして独立への想いへと一本の線でつながりました。「60歳になっても、70歳になっても、生きている限り自分が情熱を傾けて社会と関わり、体力的にも経済的にも自立していたい。」その想いに突き動かされ、会社員を続けながらアロマテラピーの最高峰である「NARD JAPAN認定アロマ・トレーナー」の資格を取得し、2004年にパルファムの前身となるスクールを開校しました。
科学的・生理学的根拠(エビデンス)を重んじる、専門教育のあり方
パルファムが最も重視しているのは、アロマテラピーを単なる「癒しの香り」としてではなく、成分や作用といった科学的・生理学的根拠に基づいて理解することです。精油の芳香成分は非常に分子量が小さく親油性であるという性質もあり、成分の一部は皮膚を通り抜けて血管に入り、循環器系としてわずか60秒ほどで全身を巡ります。また神経系である匂いの経路、嗅覚はわずか0.15秒~0.3秒で脳に到達、脳の機能にも影響を及ぼすことがわかっています。医薬品の原点もまた植物(薬草)にありますが、私たちはその化学的な働きを体系的に教えています。
身体へのアロマはもちろん大切ですが、心へのアロマとして特に注力しているのが、心理学とアロマを融合させた「心へのメディカルアロマ」です。嗅覚は五感の中で唯一、本能や情緒ー根本的な生命力ーを司る脳の「扁桃体」そして自律神経系の最高中枢である「視床下部」にダイレクトに届きます。しかもその速度、わずか約0.2秒です。私自身、人生の困難な時期に精神的に追い詰められ、48時間眠れないような状態を数回経験した際、マジョラムという精油の香りに深く支えられました。成分としての薬理作用と、本人が「快=好ましい」と感じる感覚が合わさることで、自律神経のバランスをニュートラルに戻すことができると考えます。こうした「なぜ効果的に働くのか」という理論を伝えることこそが、プロを育成する私たちの役割だと考えています。
「仕事に繋げること」への責任と教育環境
2011年に現在の四谷校を開校した際、広々とした空間でアロマの学びやオイルトリートメントの実技に打ち込める環境を作るため、一から内装を整えました。一校に優秀な講師を集約させているのも、教育の質を一定に保つためです。パルファムには40代、50代の受講生も多くいらっしゃいますが、私は「学んで終わり」ではなく、その知識が確かな収入や社会貢献に結びつくことを何より大切にしています。
就職相談に力を入れているのもそのためです。安くない授業料をお支払いいただく以上、プロとしての説明能力と技術を身につけ、就職や開業という形で人生の次のステップへ進んでほしいと強く願っています。最近では57歳でサロン就職を決めた生徒さんもいらっしゃり、こうした出来事はわたしや講師スタッフ一同にとってこの上ない喜びであり大きな励みとなります。趣味のアロマは「自分が好きかどうかと自分の健康維持」の目的で十分ですが、仕事のアロマは「相手の悩みに対して根拠を持って精油や健康についてアドバイス、場合によってはアロマオイルトリートメント施術ができること」が求められます。
未来へ:予防医療としての地位確立
今後は、アロマセラピストの仕事の領域をさらに広げていきたいと考えています。病院に行く手前の「予防医療」として各々の家庭に、また「アロマ健康サロン」の開業、あるいは産婦人科でのケアや企業のメンタルヘルスへの導入など、アロマセラピストが専門職として自立できる多様な道を拓くことが目標です。理学療法士の方々のように、専門的な教育を受けたプロが社会の中で確固たる役割を担うと同じように、アロマもそんな専門学校としての理想を追求し、これからも科学的・生理学的な視点を大切にしながら、植物療法の価値を伝え続けてまいります。









